Archleaf

OPINION 提言

「家は買うものではなく作るもの」
まず、私はこのことを声高らかに宣言したいと思います。
 家を買うには有名なハウスメーカーや、地元の優良な工務店など、いろいろな方法があります。それぞれに長所短所が有り、一概にどれか一つが絶対に良いと決められるものではありません。あまりこだわりが無く、普通に安く建てた方が良ければ、今台頭してきているスーパー工務店の方が良いかもしれません。お金に余裕があって、いろいろなスペックを満足してなおかつ、ネームバリューの安心も得たい人は有名なハウスメーカーに頼んだほうがいいでしょう。
 「自分たち」に合った「自分たち」だけの家を作りたい。敷地の持つ特性をわきまえて、弱点を克服し、利点を最大限に利用したい。そんなことを真剣に考えている人と一緒に家作りができれば幸せです。
 家作りは楽しいことですが、また、大変なことでも有ります。その「自分たち」とは一体何なのかを探求していくことでも有ります。
 建築家(設計のプロ)と一緒に家を作るということは、専門的な知識や感性をもったプロをある期間貸し切って、知らないことや分からないこと、その他数々の不安を解消し、「自分たち」の夢を、漠然とした姿から現実の形在るものとしてこの世に産み出すことです。産みの苦しみは有ります。
 だから価値観は共有しなければなりません。共通の価値観がなければ必ず失敗します。ですから、これから、具体的なことがらに対する私の考えを述べたいと思います。共感できれば良い仕事が出来ると思います。そうでなければ、残念ながら他をあたった方が良いと思います。
1.防水
家の基本的な原則は「雨露を凌ぐ」ことです。
昨今、四角いビルのような水平な屋上をもつ木造の家が雑誌にも多く掲載されています。防水の技術が発達して、そういうことが可能になりました。しかし、材料には耐用年数があります。予期せぬ暴風雨も有ります。防水層はほぼ水平なので、もし防水層が切れたら雨水はそのまま直下の部屋の天井に染み出て来るでしょう。良いデザインも、中の物を濡らすようでは何の意味も有りません。私は伝統的な形である切妻や寄せ棟の屋根を掛けて、雨水は外の樋へ流したいと思います。(細心の注意をもって一部分だけ水平な屋上にすることはできます)「雨露を凌ぐ」ということを真剣に考えています。
2.耐震
地震で家が倒壊して、命を無くしたり、大怪我をすることは何としてでも防がなければなりません。そのためにアークリーフ建築研究所では、2階建ての木造住宅でも、建築基準法の義務以上の構造計算をして骨組みを設計します。その結果、耐力壁の量は法律を義務的に守っただけのものに比べ1.6倍から2倍以上になります。
地盤はそれより大事です。住宅の規模での地盤調査はスウェーデン式サウンディング試験が一般的です。この方法は一応の目安にはなりますが、大変心もとないものです。また、実際に試験をする技術者の能力によって結果に差が出ます。そこで私は信頼の置ける技術者に直接お願いして、スウェーデン式サウンディング試験と非破壊式表面波(レーリー波)探査法の両方で地盤調査を行います。これでも目に見えない土の中のことが全て分かるわけでは在りませんが確実性は増します。そして、この調査に基づいて、必要であれば、地盤改良や杭などの地盤の補強を行います。
3.断熱・気密
昨今は、高断熱、高気密が主流です。いろいろなところで電気製品や自動車のようにスペック合戦を繰り広げています。悪いことではありませんが、ナンセンスなことだと思います。
 私は「高断熱・中気密」が良いと思っています。断熱はした方が良いのは誰の目にも明らかです。その断熱をするために内部結露という問題が生じ高断熱には高気密が必要になったのです。
 私は山登りが好きで(今は悲しいことに長期ブランクですが)カッパを着て歩いた経験が普通の人より多く有ります。ナイロンのカッパを着てしばらく歩けば服の中は蒸れてものすごい不快感です。これはゴアテックスの出現でかなり解消されました。外からの雨水を通さず、中の水蒸気を外へ逃がす画期的な素材です。住宅にも同じような機能をもつ透湿防水シートが外壁の仕上げの下に使われています。ところが断熱材はこの透湿防水シートよりも部屋内なのでそこで内部結露しないように防湿シートを部屋内の仕上げの下に貼って気密を高くすることが常識のようになっています。ナイロンのカッパを着て、その上にセーターを着て、その上にゴアテックスのカッパを着たイメージです。これでは息苦しい。ウールのセーターにゴアテックスのカッパで十分です。確かにカッパの内側はすこし濡れますが一日のうちの良い状態になれば自然と乾いています。ウールのセーターも少し湿気ますが濡れて冷たく感じることはありません。
 家も呼吸がしたいと思います。
 そこで断熱材には「ウールブレス」などの羊毛断熱材が良いと思っています。湿気の吸放出性能が高く、ある程度水分を保持でき、壁内結露する可能性がほとんどありません。湿気と共存でき、湿気を吸収しても断熱性能は低下しません。または、「パーフェクトバリア」などのペットボトルをリサイクルしたPET樹脂も使えます。これは透湿性が高く、湿気を吸わない断熱材です。通気層等で外部に解放された状態であれば、水蒸気は外部に拡散され結露の可能性は低くなります。これらによって室内側の防湿シート(ナイロンのカッパ)なしに高断熱が出来ます。
4.家相
家相や風水に頼りすぎることは止めましょう。家相や風水には、もちろん理論的な根拠がありますが、世界中に一つとして同じ条件の土地は無いのに画一的な決まりごとを大事そうに当てはめるのは止めましょう。本によって書かれていることが違うのも困ったものです。家相や風水は、もともと土地の光や風向き温度湿度などの気候や地勢を考慮して分かりやすく法則化したものだと思うのです。だから、もう一度原点に立ち戻って、その土地特有の諸条件を良く調べて、それらに逆らわず、さらりと利用して共存できる家を作りましょう。土地のオリジナルな家相・風水を編み出しましょう。
5.光と風
「光と風」は私の設計のキーワードです。
敷地のもつ光と風の道筋を読み取り、家の設計に最大限生かすことを信条にしています。単なる間取り図だけの設計図で、あまりに多くの家が建っています。悲しい現実です。同じ大きさの窓でも取り付ける高さによって感じ方や光の入り方、風の通り方は違ってきます。光とは、光量だけでは有りません。朝日や夕日の光の色、新緑に溶けた光の色、水面(みなも)に反射した陽のきらめき、または、窓から見える景色そのもののことです。光の重要さは建築基準法の採光の条文を満足するだけでは全く取るに足りないものです。もっと豊かで奥深い光を感じることができる家を作りたいと願っています。風はその次に重要です。風のゆらぎが無かったら我々の暮らしはどんなに味気無いものでしょう。京町屋では打ち水をすることにより生ずる気圧差を利用して自然の空気のゆらぎをおこし、すずしさ感じさせるような工夫もありました。風の言葉を聴ける家、そんな家を作りたいと思います。
6.機能と風合い
機能と風合いは反対語では有りませんが、相容れないことが多いようです。たとえば最も象徴的なものが木製の建具(各部屋の入り口のドアや引き戸などのこと)です。各メーカーから出されている既製品は汚れにくく調整もしやすく製品として機能的に良く出来ています。ところが均質にきれい過ぎて芝居の書割のように現実味が有りません。納まりも画一的なので、デザインは強制的に製品に支配されて、だんだんとオリジナルなものから遠ざかって行きます。これに比べオーダーメイドの建具は1年以内に調整が必要で、既製品のようには言うことを聞きません。既製品に比べると汚れやすく傷つきやすいかもしれません。値段もまったく同じ性能で比べれば既製品の方が安いです。しかし、オーダーメイドの建具には風合いが有ります。逆に言えば家全体のデザインに合わせて設計することが出来ます。機能的には少し劣るけれど風合いの在るものが好きです。そのくらいのゆとりが家作りにも必要です。スペックを追い求める人はいずれその間違いに気づくでしょう。
7.資金
資金繰りは重要です。
普通の人の人生で家を作ることは最大の出費です。無謀な家作りは人生の破綻に繋がるかもしれません。家作りを考えるころは、ちょうど人生の折り返し地点のころです。真剣に自分の人生の計画を立てるべき時です。私たちはファイナンシャルプランナーと提携して、家作りを契機に人生のプランも立ててもらいます。私たちの目標は幸せな家庭や人生です。家を作ることはその手段です。ファイナンシャルプランナーの分析の結果、家を作ることで金銭的に不幸になるような判定がでたなら、家作りを諦めることをお勧めするかもしれません。